呼吸動態画像診断のための診断支援システムの開発
-撮影法からコンピュータ定量解析法の開発,そして,臨床評価まで-
担当者:田中利恵
背景
高齢社会,大気汚染,喫煙などの影響で呼吸器系疾患の罹患率が世界的に上昇している.特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,アメリカでは死因の4位,日本では10位となっている[1],[2]. COPDは高齢者に多く発症するため,簡便に繰り返して定量評価できる方法が必要である.現在,呼吸器系疾患の機能評価は肺機能検査によって行われている.しかし,通常の肺機能検査では局所的な評価や,左右の肺の個別評価ができない.また,最大努力呼吸を行う必要があるため,体力の低下が著しい高齢者や,肺機能が低下している患者にとっては大変な労力を要し,正確な値を得ることが困難な場合が多い.肺機能の局所的な定量評価を可能にする1つの打開策が,画像診断装置を用いた動態撮影である.胸部動態画像からは,従来の解剖学的情報だけではなく,横隔膜動態やX線透過性の変化などの呼吸性動態情報を取得することができる.
これまでに多くの研究者が,I.I.-X線TVシステム,Dynamic CT,Dynamic MRIなど様々な画像診断装置を用いて呼吸性動態情報の取得を試みてきた.そして,それらが呼吸器系疾患の診断に有用であるとの報告が数多くある.しかし,撮像視野の制限・画質の低さ・検査の煩雑性などの問題で臨床実用には至っていない.
研究内容
そこで我々は,大視野の動画対応フラットパネルディテクタ(FPD)による動態撮影に注目した.そして,これまでにFPDによる呼吸動態撮影法の開発[3],胸部X線動画像の呼吸性動態情報を定量化するコンピュータアルゴリズムの開発[4]-[10],既存の検査結果との相関の調査[11]を行ってきた.
STEP1: 撮影法の開発
<撮影条件> |
<撮影方法> |
<取得動画像> |
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立位正面背腹方向 呼気(5秒)+吸気(5秒) | 横隔膜・肺の血管・気管支・心臓の動きがよく分かります.(正常症例) |
STEP2: 呼吸性動態情報を定量化するコンピュータアルゴリズムの開発
<解析内容> |
<解析結果> |
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肺尖部から横隔膜までの距離をコンピュータ自動計測した結果です. (正常症例) |
STEP3: 既存の検査結果との相関
現在取り組んでいること
- 解析結果を呼吸生理学的知見から検証(換気,Airway closure,換気の局所的差異)
- 診断基準の確立
- 呼吸動態画像診断のための表示システムの開発
など
現在までに明らかになったこと...(最新の研究状況 2005/6/2時点)
コンピュータ定量解析機能付きのFPDを用いた呼吸動態撮影により,相対的な局所換気を定量化できること,および換気の局所的差異を検出できることが明らかとなった.また,呼気終末のAirway closureをとらえている可能性があることが示唆された.本法は局所換気に異常をきたす慢性閉塞性肺疾患の診断支援および経過観察のための新しい画像診断法として期待できる.
将来展望
<対象疾患>
など
関連する文献
[1] National Vital Statistics Report, National Center for Health Statistics, Maryland, Washington DC, 52, 1-48 (2002).
[2] Japan Vital Statistics System, Ministry of Health, Labour and Welfare, Tokyo, (http://www.mhlw.go.jp/) (2003)
[3]田中利恵, 真田茂, 鈴木正行, 他: 胸部動態画像診断のためのX線撮影法の開発:撮影時の合図の出し方についての検討. 日放技学誌, 59(8), 423-431, 2003 8月.
[4]田中利恵, 真田茂, 鈴木正行, 他:呼吸性動態解析の可能な新しいスクリーニング胸部X線撮影法.日放技学誌,58(5), 665-669,2002 5月.
[5]田中利恵, 真田茂, 鈴木正行, 他:スクリーニング胸部動態画像診断のための差分画像解析.電子情報通信学会,102(299),19-23,2002 9月.
[6]田中利恵, 真田茂, 鈴木正行, 他:新しいスクリーニング胸部X線撮影法による肺紋理の移動解析および肺野内局所の濃度解析.日放技学誌,58(11),1489-1496, 2002 11月.
[7]田中利恵, 真田茂, 鈴木正行, 他:胸部動画像を対象とした呼吸性動態の定量化.医用画像情報学会雑誌,20(1),13-19,2003 1月.
[8]田中利恵, 真田茂:新たなFPDシステムの研究・開発動向短時間時系列画像の撮像システムの開発. INNERVISION, 18(4), 79-83, 2003 4月.
[9]Rie Tanaka, Shigeru Sanada, Masayuki Suzuki , etc.: Breathing Chest Radiography using a Dynamic Flat-Panel Detector (FPD) with Computer Analysis for a Screening Examination. Medical Physics, 31(8), 2254-2262, 2004
[10]Rie Tanaka, Shigeru Sanada, Takeshi Kobayashi, etc.: Computerized methods for determining respiratory phase on dynamic chest radiographs obtained by a dynamic flat-panel detector (FPD) system. Journal of Digital Imaging, 18(1), 1-11, 2005
[11]Rie Tanaka, Shigeru Sanada, Masayuki Suzuki, etc: Automated analysis for the respiratory kinetics with the screening dynamic chest radiography using a flat-panel detector system. CARS2003 Proceeding. Computer Assisted Radiology and Surgery, 179-186, 2003 june.