動画対応フラットパネルディテクタによる顎関節動態解析に関する研究

担当者 長瀬博之

背景

 顎関節に起こる代表的な疾患の一つに顎関節症がある.顎関節周囲の筋肉や関節の疼痛,クリッキングやポッピング,関節雑音,ロッキングによる開口障害,顔、首、肩の放散痛などを主な症状とする非炎症性の慢性疾患である.この顎関節症は,20〜30歳代の女性に多く,増加傾向にある.また,咬合などの歯科的な因子のほか,精神的な因子などのよっても発症する多因性疾患といわれているが,まだ未解明な部分がある.


 顎関節症の診断は,主にX線写真,CT,MRI,などの静止画像から医師が主観的に推測して行うために定量性に欠ける[1].顎関節機能解析を行うために高速MRI装置や顎運動記録解析装置などを用いた研究がある[2-5].しかし,高価な機器が必要とする上,被験者は臥位になったり頭部に計測器具を装着したりするために自然な顎運動を阻害しかねない.そのため,簡便に行うことが可能で,かつ定量的な機能評価法の開発が急務である.

 過去にシューラー法を対象として顎関節の動態解析を行った研究は多くある[6-10].シューラー法では下顎頭を明瞭に描出することが可能であるが,検出器に対して管球を斜めに位置したり,左右を個別に撮影したりするため,再現性に乏しく,左右の機能の定量的な比較が困難である.

 

研究内容
そこで我々は,下顎骨全体が1枚のX線写真に投影される頭部軸位像に注目した.そして,この軸位像を対象に一般撮影領域において,動画対応フラットパネルディテクタ(FPD)を用いて簡便に行うことが可能で,かつ定量的な顎関節動態X線撮影法を開発することが本研究の目的である.
1.撮影法
<撮影条件> <撮影方法>

<取得動画像>



2.解析法
<STEP1:積和差分法による動きの強調> <STEP2:計測>

  各画像の切歯点と下顎頭両端を
  手動で計測する.
  <STEP3:軌跡・移動量を算出>
 切歯点の軌跡と移動量を算出→グラフ
 下顎頭両端から下顎頭中心点を算出→下顎頭中心点の軌跡と移動量を算出→グラフ

3.解析結果
<正常症例と右クリックあり症例の比較>

  左:切歯点の移動量

  右:下顎頭の移動量

 

 

現在取り組んでいること

・正常顎関節動態の検討
・画像処理による下顎頭の強調
・コンピュータによる自動計測

など

現在までに明らかになったこと...(最新の研究状況 2005/6/10時点)
自覚症状がなく,かみ合わせも正常な症例(3例)では,切歯点はわずかに変動するが大きな変化はなく,下顎頭の移動量が最高となるタイミングもほとんど左右差がなかった.
右側にクリックがある症例(1例)では,開口時に大きく切歯点が右側に偏位した.また,下顎頭の移動量が最高となるタイミングが左右で異なった[11].

 

将来展望
顎関節症の患者の術前・術後の機能評価や治療後の経過観察などへの応用.
定量化した動態データを用いたコンピュータ支援診断システムによる顎関節動態画像診断.

 

関連する文献

[1] Ueki K, Nakagawa K, Takatsuka S, et al.: Plate fixation after mandibular osteotomy, Int.J.Oral Maxillofac. Surg. 30,490-496,2001.
[2] 友寄裕子,萬代弘毅,菅原準二,他:下顎非対称を伴う骨格性下顎前突症の咀嚼運動系路の特徴‐顎顔面・顎関節形態との関連性‐,Orthod Waves,61(5),376-391,2002.
[3]Theusner J, Plesh O, Curtis DA, et al.: Axiographic tracings of temporomandibular joint movements, J Prosthet Dent, 69(2),209-215,1993.
[4]東高志,南部敏之,土肥健二,他:超高速MRIを用いた顎運動計測.日本臨床バイオメカニクス学会誌,21,489-495,2000.
[5]山口公子,郡由紀子,西野瑞穂:小児顆頭運動の3次元解析.顎機能誌,8,99-106,2002.
[6萬代奈都子,真田茂,上木耕一郎,他:顎関節を対象とした動態撮影法およびその機能解析法.日放技学誌,59(3),295-301,2003.
[7]萬代奈都子,真田茂,上木耕一郎,他:顎関節動態画像を対象とした形態学的解析法.日放技学誌,59(8),951-957,2003.
[8]福島重廣,西田知広,大庭健:最小値投影法にもとづくサブトラクションを用いたシネX線画像からの下顎頭運動軌跡の追跡.医用画像情報学会雑誌,12(1),35-43,1995.
[9釼持稔,林豊彦,加藤一誠,他:X線テレビ画像を用いた顎関節運動の推定.信学技報,95(84),69-76,1995.
[10]釼持稔,林豊彦,加藤一誠,他:ウェーブレット変換の位相を用いたX線テレビ画像からの顎関節運動の推定.信学技報,96(429),17-24,1996.

[11]大谷友梨子,真田茂,上木耕一郎,他:フラットパネルディテクタ装置による頭部軸位動態画像を対象とした顎関節動態解析法.医用画像情報学会雑誌,22(1),73-78,2006.

 

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