診断用高精細液晶ディスプレイの視覚的評価に関する研究
-多階調表示液晶ディスプレイの有用性-

担当者 荒木陽子

背景

近年,電子カルテの導入,モニタ診断等によるフィルムレス化に伴い,医療用高精細液晶ディスプレイが急速に普及してきている.しかし,液晶ディスプレイの物理的特性と診断能との関係については明らかにされておらず,早急な解明が求められている.

表示諧調については,これまで8 bit表示が主流であったが,10 bit表示等,多階調表示可能な液晶ディスプレイが登場している.今後,画像診断に使用する液晶ディスプレイについても,多階調表示への移行が予想される.

ステップ画像を10 bit表示,8 bit表示し比較すると,明らかに10 bit表示のほうが8 bit表示に比べて細かなステップが表示される.しかしながら,医用X線画像を表示し比較すると,両者の違いを見つけることは極めて困難である.

この原因として,現在の医用X線画像はカンタムノイズが多く含まれるという特徴が考えられる.これにより,10 bit表示,8 bit表示という表示階調数の違いは,医用X線画像の診断能に影響を与えないのではないかと予想される.

 

研究内容

目的:

診断用液晶ディスプレイの最適階調数とカンタムノイズの関係を明らかにする.

 
方法:

通常の臨床画像よりもカンタムノイズの少ない画像を作成し, X線画像のカンタムノイズと高精細液晶ディスプレイにおける階調特性(8 bit,10 bit)の関係について,検討を行った.

 

画像作成

カンタムノイズの異なる,腫瘤状陰影を含む胸部X線画像を作成した.

模擬腫瘤を貼り付けた肺野ファントムを通常線量,通常の10倍線量,通常の80倍の線量により撮影した.

特に縦隔や心臓の裏を比較すると,少ない線量により撮影した画像ほど,粒状性の高い画像となっていることがわかる.また,腫瘤についても,線量の増加に伴い,明らかに検出しやすい画像となった.

観察実験

8 bitおよび10 bit表示し,観察実験を行った.

観察者は平均経験年数4年の放射線技師8名とした.液晶ディスプレイの輝度範囲を0.75 - 450 cd/m2,環境光の照度を約30 Lxに設定した.

連続確信度法によるROC解析を行った.

解像度5M pixelの液晶モノクロディスプレイ
 

まとめ:

カンタムノイズの多い画像では,10bit表示,8 bit表示の腫瘤検出能に差はあまりないが,カンタムノイズの少ない画像ではその差が大きくなると推測した.しかし,通常線量,10倍線量,80倍線量により得た画像を用い,観察実験を行った結果,その腫瘤検出能に統計的有意差は認められなかった.また,通常線量,10倍線量の画像において,カンタムノイズの多い通常線量の画像のほうが胸部腫瘤陰影の検出能が劣る傾向が見られた.

 

現在取り組んでいること
マンモグラフィ画像を対象とし,液晶ディスプレイの多階調表示の有用性を検討する.

 

将来展望

医療現場における液晶ディスプレイは,診断という医療の最も根源に関わる部分のデバイスである.

解像度や表示階調等,ディスプレイの物理的特性による表示の違いが医療画像に対する診断能に及ぼす影響を明らかにし,医療現場の様々な使用状況において,画像表示用液晶ディスプレイが具備すべき要件について,心理物理的な研究を進める.

 

戻る

">